大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1344号 判決

被告人 牧野建二

〔抄 録〕

一、弁護人の論旨第一点について。

所論は原判示第一の瓦斯パイプ騙取の点について、被告人が右物件を受領したのは正当に成立した売買契約の履行に過ぎず詐欺罪の成立する余地はないと主張しているが、原判決挙示の証拠によれば、被告人が原判示山田嘉男から瓦斯パイプを買受けた際には、厚木駐留軍の工事に用いるものであるから代金は確実に支払うことができる旨を申向け、同人はその言により、駐留軍工事に用いられるのならば代金支払を確実に受けられるものと信用して売買契約を締結したものであることが明らかであるが、かかる場合においては、その売買の目的物件を駐留軍工事に用いるということが売買契約締結の一要件となつたものであると認めるのが相当であるから、買主がその物品引渡を受ける以前において、これを契約の要件であつた駐留軍工事に使用せず、自己の経営する会社の金策のために他へ安く転売せざるをえないような事態に立到つた場合には、その旨を売主に告知し、その承認を得る義務が存するものと解するのを相当とする。蓋し、遅滞なく売買代金の支払を受けえられるかどうかは売主にとつて最も重要な関心事であるから、売主はその支払を確保するために必要な方策を考慮した上契約を締結するものであるところ、本件事案においては、前認定のように、売主はその代金支払を確保するために、買主との間に特に売買物件の用途を定めたものであつて、もし最初から買主がその買受けた物件を自己の経営する会社の金策のため他へ安く転売するということであつたならば売主は到底右売買契約に応じなかつたものと推測されるから、もし契約成立後物件引渡以前において右のような事態が発生したとすれば買主はこれを売主に告知し、その承認を受くべき義務の存するものと認むべきことは、商取引における信義誠実の原則に照して当然であるといわねばならないからである。もつとも記録に徴すると被告人と原判示山田嘉男との間には本件売買取引以前にも数回金取引の行われた事実の存することは認められるけれども、前認定のように特に売買物件の用途について当事者間に合意の成立していた本件取引のような場合においては、買主が事情の変更を相手方に告知する義務を有することはなお新規の取引の場合となんら異るところはないから、従前にも金取引があつたということは被告人の告知義務を免れさせる理由とはなし難い。従つて被告人が原判決認定のように売買契約締結後において発生した前記のような事実を秘し売主たる山田嘉男の錯誤を利用して原判示第一の物件の交付を受けた行為が詐欺罪になることは論をまたない。所論は独自の見解に基き被告人の行為が適法であると主張するものであるから採用の限りではない。

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